近年、地球温暖化の影響が深刻化するにつれ、環境保護への関心が高まっています。
二酸化炭素の排出量が度々話題に上っていますが、木材の活用が二酸化炭素量の調節に関わっているのをご存じない方も少なくないのではないでしょうか。
木造建築は、コンクリート建築などに比べて環境負荷が低く、地球にやさしい建築方法として注目されています。
中でも注目すべきなのが、木材の持つ「炭素固定」の効果です。
今回は、木造建築が地球温暖化防止に貢献する理由である「炭素固定」について、わかりやすく解説していきます。
炭素固定の概念と具体的な方法
木造建築が地球温暖化防止に貢献する理由を語る上で欠かせない「炭素固定」。
その概念について解説します。
● 炭素固定とは
● 植物による炭素固定
● 海洋プランクトンによる炭素固定
● 人工的な炭素固定
それぞれ詳しく見ていきましょう。
炭素固定とは
「炭素固定」とは、大気中に存在する二酸化炭素を、樹木や海洋、土壌などに吸収・蓄積させることを指します。 ほぼ同じ意味の言葉で「炭素貯蔵」ともいわれ、地球温暖化の主な原因とされる二酸化炭素を削減する効果があり、地球温暖化対策として重要な役割を担っています。 それ以外にも、生態系の保全や経済活性化など、さまざまな面で注目されている概念です。 炭素固定の方法には、大きく分けて自然によるものと人工的なものの2種類があります。
植物による炭素固定
代表的な炭素固定の例として、植物の光合成が挙げられます。 植物は、光合成の過程で、大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を排出します。 吸収された二酸化炭素は、植物の体を作る材料として使われ、蓄積されていくのです。 地球上の森林は、この炭素固定の重要な役割を担っており、南米のアマゾンやインドネシアの熱帯雨林は「地球の肺」とも呼ばれています。
海洋プランクトンによる炭素固定
植物だけでなく、海に生息する植物プランクトンも、光合成によって二酸化炭素を吸収します。 吸収されたCO2は、有機炭素となり沈降し、海底にCO2は固定されます。 さらに海藻も海中で光合成をおこなうため、海洋は地球上で最大の炭素貯蔵庫といわれているのです。 そのため、海は大気中の二酸化炭素濃度を調節する上で重要な役割を果たしています。
人工的な炭素固定
近年では、大気中から直接二酸化炭素を分離・回収・貯留する「人工的な炭素固定」の技術開発も進められています。
この技術は、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれ、地球温暖化対策の切り札として期待されています。
そのほかにも人工的な炭素固定の方法は、以下のように多方面から開発中です。
● 科学吸収:アルカリ性溶液に反応・吸収させる
● 物理吸収:ゼオライトや活性炭、アルミナなどを吸着させる
● 炭化:炭の中に固定
● 地中貯留:地中や海洋の奥深くに隔離、圧縮して隔離
回収したCO2を資源として再利用する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」といった方法も実用化を目指しています。
炭素固定と環境問題
地球温暖化などの環境問題において、炭素固定は重要なキーワードです。
以下のような観点から、炭素固定が環境問題にどのように貢献するのかについて解説します。
● 温暖化と二酸化炭素の関係
● 森林の二酸化炭素吸収効果
● 国産木材を利用する意味
● 森林循環と育成による炭素固定効果
それぞれ詳しく見ていきましょう。
温暖化と二酸化炭素の関係
画像引用:GREENPEACE
二酸化炭素などの温室効果ガスを過度に放出してきたことで、地球の大気中には温室効果ガスが蓄積し続けています。
その濃度の増加により、本来なら宇宙へ放出されるはずの熱が大気中にこもってしまい、地球規模での気温上昇(温暖化)が急激に進行中です。
二酸化炭素は、温室効果ガスの約66%を占めており、2020年の期間の人間活動による排出のうち、約48%が大気、26%が海洋、29%が陸上に蓄積されています。
画像引用:気象庁|WMO温室効果ガス年報
森林の二酸化炭素吸収効果
森林は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を固定する役割を担っています。
適切に手入れされている36~40年生のスギ人工林は、1ヘクタール当たり約83トンの炭素(二酸化炭素量に換算すると約304トン)を蓄える能力があるといわれています。
また、36~40年生のスギ人工林1ヘクタールに1,000本の立木があると仮定した場合、1年間に8.8トンの炭素を吸収してくれる計算です。
環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」によると、2021年において1世帯から1年間に排出される二酸化炭素の量は2.74トンでした。
画像引用:環境省|家庭部門のCO2排出実態統計調査
二酸化炭素(CO2)と炭素の量の関係は以下のとおりです。
CO2×0.273=炭素の量
この計算方法にあてはめると、家庭から1年間に排出される炭素は約1.01トンになります。
36~40年生の杉森林1ヘクタールは、約82世帯の炭素を吸収してくれる計算です。
このように、森林を保全し、適切に管理していくことは、地球温暖化防止に大きく貢献すると言えるでしょう。
参考:林野庁
国産木材を利用する意味
国産木材を利用することで、海外からの木材輸送にともなう二酸化炭素排出量を削減できます。
また、国内の森林整備にもつながり、森林の持つ炭素固定機能を維持・向上といった効果も期待できます。
森林から伐採され搬出された木材(HWP)には、成長過程で吸収した炭素が固定されており、木材製品として利用されている間、炭素は固定された状態です。
HWP(Harvested Wood Products)とは、森林から伐採された木材を加工して作られた製品の総称です。
木材は、成長過程で二酸化炭素を吸収するため、HWPは炭素を長期的に固定する役割を果たします。
また、京都議定書第やパリ協定においても、HWPの炭素固定効果が認められ、その利用が推奨されているのです。
HWPによる炭素貯蔵量を増やすためには、廃棄されるHWPより新規に利用するHWPが多い状態である必要があります。
森林循環と育成による炭素固定効果
画像引用:林野庁
木を伐採し、木材として利用する際に、適切な森林管理を行うことで、炭素固定効果を維持・向上させられます。
それには伐採したあと、新たに植林を行い、森林を循環させていくことが重要です。
そこで「植える→育てる→使う→植える」というサイクル(森林資源の循環利用)をつくり、健全な森林を保つ大きな循環を整えていくことが推奨されています。
また、木材を長期間利用することも、炭素を固定し続ける上で効果的です。
その点、木造建築は、木材を長期的に利用できるため、地球環境にやさしい建築方法といえるでしょう。
木材の炭素固定量の計算方法
木材がどのくらい炭素を固定しているのか、具体的な計算方法を見ていきましょう。
その手順は、以下のとおりです。
1.ガイドラインをチェックする
2.木材の体積を調べる
3.木材の密度を調べる
4.木材の炭素含有量を調べる
5.計算式にあてはめる
6.自動計算テンプレートを利用する
それぞれ順に見ていきましょう。
1.ガイドラインをチェックする
林野庁が出している「建築物に利用した木材に関わる炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を確認しましょう。
このガイドラインは、建築物に利用した木材に関わる炭素貯蔵量を計算する方法と表示する方法をまとめています。
表示例の見本は下記のとおりです。
画像引用:林野庁
2.木材の体積を調べる
炭素固定量を計算するには、木材の体積を把握する必要があります。 木材の寸法を測り、体積を計算しましょう。
3.木材の密度を調べる
木材の種類によって密度が異なります。 使用する木材の密度を調べましょう。 木材の密度に関する情報は、木材メーカーのカタログやウェブサイトなどで確認できます。 木材と木質ボード、それぞれの密度の数値を数式にあてはめましょう。
4.木材の炭素含有量を調べる
木材に含まれる炭素の割合を「炭素含有率」といいます。 一般的に、木材の炭素含有率は約50%です。 ただ、厳密にいえば、木材の種類によって異なる場合があります。 正確な数値を確認したい場合は、木材メーカーに問い合わせてみましょう。
5.計算式にあてはめる
木材の体積、密度、炭素含有率が分かれば、以下の計算式に当てはめてみましょう。
炭素貯蔵量(CO2換算)(t-CO2)
木材の炭素固定量(t-C)=木材の材積(m3)×木材の密度(t/m3)×木材の炭素含有量×44/12
44/12を最後に掛けるのは、炭素量を二酸化炭素量に換算するためです。44/12の代わりに×0.27でも計算できます。
6.自動計算テンプレートを利用する
木材の炭素固定量を簡単に計算できる、自動計算テンプレートやオンラインツールも公開されています。
複雑な計算が苦手な方はこちらを利用するのも良いでしょう。
テンプレートとして、林野庁がExcel計算シートを配布しています。
ダウンロードページはこちら
エクセルシートをダウンロードする場合はこちら
木造建築が炭素固定に貢献する理由
ここまで炭素固定の概念や仕組について解説してきましたが、改めて「なぜ木造建築が炭素固定に貢献するのか?」について、具体的な理由を4つ紹介します。
● 成長によって二酸化炭素を吸収するから
● 建築・製造時のCO2排出量が少ないから
● 建築後の炭素を固定しているから
● 伐採による森林の循環に貢献できるから
それぞれ詳しく見ていきましょう。
成長によって二酸化炭素を吸収するから
画像引用:千葉県
若い樹木は、最初の25年間に成長のために多くの二酸化炭素を吸収します。
25年をピークに年間の吸収量は減っていきますが、樹木50年でも、かなりの二酸化炭素吸収量があります。
なお、人間1人が呼吸により排出する二酸化炭素は、樹齢50年の杉45本分の吸収量に相当します。
建築・製造時のCO2排出量が少ないから
木材は、建築資材として利用された後も、炭素を固定し続けます。
木造建築は、建物の寿命が尽きるまで、炭素を貯蔵し続ける「炭素貯蔵庫」としての役割を担うといわれています。
また、鉄骨鉄筋コンクリート造りと比較すると、木造のCO2排出量は2割程度です。
画像引用:事業の成果 木材・木造建築の物性的特質
木造建築を選ぶことは、地球温暖化防止に長期的に貢献することにつながります。
また、輸送距離も関係しているので、地元の木材を活用することで輸送コストなども抑えられるでしょう。
地域産材の原木を使用した場合は、国産の原木を使用した場合の60%程度に二酸化炭素排出量を抑えられます。
建築後の炭素を固定しているから
画像引用:事業の成果 木材・木造建築の物性的特質
木材に固定された炭素は、建築後も固定されたままです。
住宅建築に使用した木材を住居解体後も家具などの別の用途に活用できれば、さらに炭素固定を続けられます。
このようなリサイクルは、炭素固定の期間を延ばせるだけでなく、資源を有効活用できる木材の理想的な利用方法といえるでしょう。
伐採による森林の循環に貢献できるから
国内の森林を利用し、効率的に炭素固定するためには「植える→育てる→使う→植える」というサイクル(森林資源の循環利用)を作り、健全な森林を保つことが理想です。
日本における人工林は、森林の40%程度の約1,029万ヘクタールほどで、その人工林も成熟期を迎えています。
画像引用:林野庁
林野庁も木造利用を推進しており、以下のように森林利用を推奨しています。
『人工林が本格的な利用期を迎えた今、
「伐る、使う、植える、育てる」といった森林資源の循環利用を確立させながら、多様で健全な森林の整備及び保全の推進、効率的かつ安定的な林業経営に向けた施策を推進していく必要がある。』
(引用:林野庁)
木造建築の需要が高まれば、国内林業が活性化し、適切な森林管理も促進されるでしょう。
健全な森林を維持・拡大していくことは、炭素固定能力を高め、地球温暖化防止に貢献することにつながります。
木造建築のメリット
二酸化炭素吸収のほかにも、木造建築はメリットがあります。
それを以下の3つにまとめました。
● 適度な温度や湿度に保つ
● 環境負荷を少なくできる
● コストを抑えられる
● 工期が比較的短い
それぞれ詳しく見ていきましょう。
適度な温度や湿度に保つ
画像引用:林野庁
木造建築の最も大きな特徴のひとつは、優れた調湿性です。
空気中の水分を吸収したり放出したりすることで、室内の湿度を一定に保つ働きがあります。
過湿や乾燥を防いでくれるため、肌トラブルの軽減も期待できます。
さらに高い断熱性もメリットのひとつです。
外気温の影響を受けにくく、室内を程度な温度や湿度に保ってくれます。
夏には涼しく、冬には暖かいといった、快適な空間を実現するのに役立ちます。
環境負荷を少なくできる
木造建築は、環境への負荷が少ないことも大きなメリットです。 コンクリートと比べ、生産や運搬にともなうエネルギー消費が低いため、CO2排出量を抑えられます。 また木材は、リサイクルが可能であり、廃棄物も少なく済みます。
コストを抑えられる
木造建築は、ほかの建築様式と比べて、材料費や施工費が比較的安価です。 例えば、鉄骨やコンクリートに比べて軽量なため、基礎工事の費用を軽減できます。 また、工期が比較的短く済むため、その分人件費を抑えられます。
工期が比較的短い
木材は加工が容易かつ、鉄筋コンクリート造などと比べて建物が軽いため、基礎工事の工数を抑えることができます。 また、プレハブ工法などを利用することで全体的な工期短縮が可能です。 早期に建物を建設したい方にとって、木造建築は魅力的な選択肢となるでしょう。
木造建築は炭素固定で地球温暖化に貢献できる
今回は、木造建築と炭素固定の関係について解説しました。
木造建築は、地球温暖化防止に貢献できるだけでなく、木の温もりを感じられる快適な住空間を提供してくれます。
ぜひ、地球にも人にもやさしい木造建築を検討してみてはいかがでしょうか?
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