事業用木造建築におけるエンボディドカーボン削減効果とは

事業用木造建築におけるエンボディドカーボン削減効果とは

近年、地球温暖化が深刻化する中、建築業界においてもカーボンニュートラルの実現が求められています。 その中で注目されているのが「エンボディドカーボン」です。 エンボディドカーボンとは、建物の建設過程で排出される温室効果ガスの量のことを指し、建築物のライフサイクル全体において大きな割合を占めています。

本記事では、事業用木造建築を利用することによる、エンボディドカーボンの削減効果について解説します。 また、その定義や具体的な取り組み例についても紹介するので、事業用店舗や倉庫の建築を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

エンボディドカーボンとは

エンボディドカーボンとは

エンボディドカーボンについて、3つのポイントにまとめました。

● 建物が排出する温室効果ガスの総量
● エンボディドカーボンの算定方法
● エンボディドカーボンに関わる要素

それぞれ詳しく見ていきましょう。

建物が排出する温室効果ガスの総量

エンボディドカーボンとは、建物の建築過程で排出される二酸化炭素の総量を指します。 建物を建てるためには、材料の採掘、製造、輸送、施工といったさまざまな工程が含まれます。 その一連のプロセスで温室効果ガスが排出されます。 これまでは、おもに建物が完成したあとの暖房や冷房のような建物を使用する過程で排出される「オペレーションカーボン」に注目が集まっていました。 それが近年では、建物の建築段階から発生するエンボディドカーボンに対しても重要な課題として認識されるようになりました。

建設業においては、資材の製造から輸送、建築工事、解体・廃棄までの全工程におけるCO2排出量がエンボディドカーボンとしてカウントされます。 そのため、建物のライフサイクル全体でCO2排出量を削減しようという考え方が広まっています。

エンボディドカーボンの算定方法

エンボディドカーボンを算出するためには、建物の設計図や材料の選定情報をもとに、各工程における二酸化炭素排出量を計算する必要があります。 計算には、Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント=LCA)と呼ばれる手法が用いられます。 LCAとは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法です。 建設分野におけるLCAでは、建築物の設計、資材調達、建設、運用、解体・廃棄といった各段階における環境負荷データを収集し、CO2排出量に換算します。

エンボディドカーボンに関わる要素

ライフサイクルカーボンの範囲

画像引用:国土交通省|ライフサイクルカーボンの算定手法の構築

エンボディドカーボンに影響を与える要素はさまざまあり、おもに以下のようなものが挙げられます。

● 材料の種類
● 材料の生産地
● 建築方式
● 建物の規模

国土交通省の資料によれば、ライフサイクルカーボンの強化手法を整備することを目的に2022年12月に「ゼロカーボンビル推進会議」にて検討を開始しています。

エンボディドカーボン削減への具体的な取り組み例

エンボディドカーボン削減への具体的な取り組み例

エンボディドカーボン削減のためには、効果が期待できる対策について業界全体で取り組む必要があります。 それぞれ詳しく見ていきましょう。

国産木材の利用

国産もしくは地域産の木材を利用すると輸送距離が短くなるため、輸入の木材に比べて輸送に伴うCO2排出量を抑制できます。 これは、輸送の際の化石燃料の使用量を減らすことにもつながり、環境負荷の軽減に貢献できるでしょう。 また、国産の木材を積極的に利用することで、地元林業の活性化が期待でき、地域の経済循環を促進します。 さらに、国内の森林資源の循環利用を促し、若木の植樹によって二酸化炭素吸収量を増やすことで、持続可能な社会の実現に貢献できます。

木材の長期利用、リサイクル

木材を適切に維持管理することで、建物の長寿命化を図り、建替えによる環境負荷を低減できます。 もちろん、建物を良い状態に保つためには適切なメンテナンスが必要です。 また、建物解体後の木材の再利用や、燃料として活用するのも有効です。 資源の有効活用とCO2排出量削減を同時に実現できます。

低炭素型セメントの利用

低炭素型セメントとは、原料の代替やCO2の吸着・固定化などにより、製造過程におけるCO2排出量を削減したものをさします。 セメントは、高温で加熱する必要があるため、製造過程で大量のCO2を排出します。 しかし低炭素型セメントは、鉄鋼スラグやフライアッシュなどの産業副産物を利用することでCO2排出量を削減できるのです。

具体的には、ECMコンクリートやカーボンリサイクル・コンクリートなどがあります。 ECMコンクリートはセメントの60~70%を鉄鋼を製造する際の副産物である高炉スラグの粉末に置き換えたものです。 その結果、コンクリート由来のCO2排出量の6割削減が可能です。 また、カーボンリサイクル・コンクリートは、大気中や工場などの排気ガスなどから回収した二酸化炭素をカルシウムに吸収させて製造します。 二酸化炭素を炭酸カルシウムに練り混ぜることで、コンクリート内部に二酸化炭素を固定できる仕組みです。

LCA(ライフサイクルアセスメント)の導入

ライフサイクルアセスメント(LCA:lifecycle Assessment)とは、製品やサービスのライフサイクル全体またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法です。 ライフサイクルアセスメント(LCA)の導入は、製品やサービスの環境負荷を可視化し、より環境に配慮した製品やサービスの開発・改善に役立ちます。 企業は、環境への取り組みの一環としてLCA導入を進めており、国際的な貿易を円滑に進めるために重要となっているのです。

LCAに関する国際的な規格として、ISO14040シリーズが制定されています。 ISOとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略で、世界中の国々が同じ基準で製品やサービスの品質を確保し、国際貿易を円滑に進めることを目的とするものです。 ISO規格は、LCAの信頼性と客観性を高めるうえで重要な役割を果たしています。

モジュール建築の採用

モジュラー建築とは、工場で建物の主要な構造部分をユニットとして製造し、建設現場で組み立てる建築工法です。 モジュール建築を採用すると、工場で効率的に生産されます。 その結果、品質管理が容易になるだけでなく、廃棄物の発生抑制にもつながるのです。 工期短縮にも貢献し、建設現場におけるCO2排出量削減効果も期待できます。

各業界における取り組み事例

各業界において、建築物のエンボディドカーボン(建築物のライフサイクル全体におけるCO2排出量)削減の取り組みが広がっています。 取り組み事例として、以下のようなものがあります。

● ローソン:閉店した店舗の建材を新店舗に再利用しCO2排出量を6割削減
● 大成建設:CO2排出量予測システム「T-CARBONBIMシミュレーター」を開発
● 住友林業:建物のCO2排出量等を見える化するソフトウェア「OneClickLCA」の日本単独代理店契約を締結

建築業界では、CO2排出量を抑制するため、正確に測定するシステム作りが積極的に取り組まれています。 林業においても、地域産材の生産や木材の多様な利用方法の開発などの取り組みが見られます。

参照:
ローソン|建物建材の9割を再利用し、CO2排出量6割削減
大成建設|BIMを用いた建築物新築時CO2排出量予測システム「T-CARBONBIMシミュレーター」を開発
住友林業|建物のCO2排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~

事業用木造建築におけるエンボディドカーボン削減効果

事業用木造建築におけるエンボディドカーボン削減効果

事業用木材建築によるエンボディドカーボン削減効果について、以下の観点でまとめました。

● 木材の炭素固定効果
● 木材は再生可能な資源
● 材料製造時のCO2排出量の比較

それぞれ詳しく見ていきましょう。

木材の炭素固定効果

木材には炭素を固定する効果があります。 その理由は、成長過程で光合成によりCO2を吸収し炭素を生成したものを、体内に貯蔵し続けるためです。 貯蔵された炭素は、木材として利用されたあとも貯蔵状態が続きます。 成長過程でCO2削減に貢献し、成長が終わったのちも炭素を固定し続けるため、二酸化炭素がおもな原因となる地球温暖化の防止に貢献できます。 この木材の炭素固定効果を積極的に活用するため、住宅用建築物以外にも公共施設や事業用建築物も木造で建築することが進められています。

木材は再生可能な資源

構造・用途別建物新築CO2排出量単位

画像引用:令和4年度東京都環境建築フォーラム

適切に管理された森林から伐採し、新たに若木を植えることで、木材は持続的かつ再生可能な資源になるといえます。

一方、鉄やコンクリートなどの建築材料は、その製造過程で高温加工が必要なため大量のエネルギーを消費します。 今まで鉄やコンクリートで建築していた事業用建築物を木造に変えることで、エンボディドカーボン削減効果がかなり期待できるでしょう。

東京都環境建築フォーラムの資料によると、鉄筋コンクリートの事務所(SRC事務所)と木造の事務所を比較すると、木造事務所の二酸化炭素排出量が半分以下であることが分かります。 再利用が可能でCO2排出量が少ない木造建築は、地球環境の保全に大きく貢献するといえるでしょう。

材料製造時のCO2排出量の比較

住宅一戸当たりの炭素貯蔵量と材料製造時の二酸化炭素排出量

画像引用:林野庁

木材・鉄筋コンクリート・鉄骨のそれぞれの建築資材におけるCO2排出量を比較してみると、住宅一戸あたりの材料製造時の二酸化炭素排出量は、木造5.1炭素トンに対して鉄筋コンクリートは21.8炭素トンも排出しています。 その差は4.3倍です。鉄骨プレハブとくらべても約3倍となっており、排出量において大きな差があります。 二酸化炭素排出量のみならず、炭素貯蔵量においても、木造は鉄骨プレハブや鉄筋コンクリート住宅に比べて4倍と群を抜いています。

エンボディドカーボンにまつわる政策の動向

エンボディドカーボンにまつわる政策の動向

エンボディドカーボンにまつわる政策の動向は、補助金や法制定の面で注目すべきです。 政府の動向について、施策と法の両面から見ていきましょう。

政府の目標と施策

2021年10月22日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定されました。 これは、2050年カーボンニュートラルに向けた基本的考え方やビジョン等を示すものです。 脱炭素社会の実現に向けて、各部門の対策や横断的施策に取り組み、使える技術は全て使っていこうとうたっています。

戦略の中で、次世代のために次の3つの移行を目標として掲げています。

● 脱炭素社会への移行
● 循環経済への移行
● 分散型社会への移行

また、カーボンニュートラル社会のために、建築物の製造過程から廃棄までの二酸化炭素量にも注目しており、林野庁は以下のように計画の中で宣言しています。

「森林・林業基本計画」(令和3年6月15日閣議決定)に基づき、森林の適正な管理と森林資源の持続的な循環利用を一層推進し、森林・林業・木材産業によるグリーン成長の実現を図ることで2050年カーボンニュートラルの実現に貢献する。」
引用:林野庁「森林・林業基本計画」

そこで、政府は次のような施策を進めてきました。

● 公共建築物への木材利用
● 中大規模建築物への木材利用
● 木質新素材を活用

この施策のおかげで公共建築物の木造化は進んでおり、地域木材や木造建築物への期待は高まっています。

参照:環境省|パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略

法規制の義務化の影響

エンボディドカーボン削減を意識した法規制も進んでいます。 そのひとつが、2021年3月に制定された「建築物省エネ法」です。 これは「2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)」の実現に向け、省エネ体対策を加速させるためのものです。 法規制を受けて、2021年10月に地球温暖化対策等の削減目標を強化することが決定しています。 また、エンボディドカーボン削減のため、建築物に国産木材を使用することを後押しする法令も整備されています。

今後の方向性

今後、日本におけるエンボディドカーボンの削減に向けた施策は、より一層強化されていくことが予想されます。 例えば、住宅等における地域材の利用や、CLTや木質耐火部材の利用、セルロースナノファイバーなどの新素材の開発などです。 また、ライフサイクル全体(建築から解体・再利用等まで)を通じた二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM住宅の普及も期待されています。 国全体で、木造技術や新素材の開発を後押しし、実用化や普及のために木材利用の推進運動に取り組んでいるところです。

事業用木造建築でCO2削減に貢献しよう

事業用木造建築でCO2削減に貢献しよう

今では世界全体でカーボンニュートラルの実現を目指しています。 その施策の一つとして事業用建築物を木造にすることにより、二酸化炭素削減効果が期待できることもわかっています。 政府は地域材を利用した木造建築を後押ししていく方向です。 政府の動向を知り、流れに乗ることで、補助金や税制の優遇なども期待できるかもしれません。 事業用建築の設計や建築資材の選定においては、エンボディドカーボンを考慮し、持続可能な社会の実現に貢献しましょう。

PRESTWOODは、事務所や店舗などの事業用木造建築を設計からメンテナンスまでを提供しています。 木造事業用建築物によってエンボディドカーボンの削減に貢献することにより、環境に配慮している企業としてのブランディング効果も期待できるでしょう。 ATAハイブリッド構法による大スパン建築が特徴のPRESTWOODをぜひご検討ください。

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